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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)54号 判決

原告 財団法人半導体研究振興会

右代表者理事 岡村進

右訴訟代理人弁理士 深沢敏男

同 添田全一

被告 特許庁長官 植松敏

右指定代理人通商産業技官 丸山光信

〈ほか一名〉

同通商産業事務官 後藤晴男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和五九年審判第二一二五四号事件について平成元年一二月一四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五二年九月二六日、名称を「電子レンジ」とする発明について特許出願(昭和五二年特許願第一一五二六六号)をし、昭和五八年八月三一日前記特許出願を実用新案登録出願に変更(昭和五八年実用新案登録願第一三四九七八号、以下右出願に係る考案を「本願考案」という。)したが、昭和五九年八月二七日拒絶査定を受けたので、同年一一月一五日審判を請求し、昭和五九年審判第二一二五四号事件として審理された結果、昭和六一年一一月二〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。原告は、昭和六二年二月九日これを不服として東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起し、同裁判所は、昭和六二年(行ケ)第二二号事件として審理し、平成元年五月一一日前記審決を取り消す旨の判決を言い渡し、同判決は確定した。そこで、特許庁は、前記審判事件についてさらに審理し、同年一二月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は平成二年五月五日原告に送達された。

二  本願考案の実用新案登録請求の範囲

電磁波の遮蔽材料からなる台板9、上面板9'及び四つの側面板7、7'、8、8'を折りたたみ可能に連結して電子レンジ本体を形成し、上面板又は側面板の一つの内壁に電磁波の発振素子として静電誘導トランジスタを設け、不使用時には本体全体を折りたたんで携帯できるように構成したことを特徴とする電子レンジ。

(別紙図面参照)

三  本件審決の理由の要点

1  本願考案の実用新案登録請求の範囲は、前項記載のとおりである。

2  当審における平成元年六月二二日付けの拒絶理由は、次のとおりである。

「明細書の第三頁第一六行乃至第一八行の記載によれば、本件考案の目的は「本体全部の折りたたみができ、携帯もできる新規な電子レンジを提供することにある」と認められるが、明細書及び図面にはその目的を達成するための手段である本件考案の構成が開示されていないので、本件考案は実用新案法第三条第一項柱書の考案とは認められず、実用新案登録を受けることができないものであると認められる。

即ち、実用新案登録請求の範囲の欄には「本体全部を折りたたみ得る形状になした」及び「携帯可能に構成した」という本件考案の目的即ち願望を記載したにすぎない事項があり、本件考案の構成が開示されているとは認められない。また、考案の詳細な説明の欄の記載及び図面の記載では、本件考案の「電子レンジ」が電子レンジとしての機能を保持しつつ「折りたたみ」が可能になるための条件は何か、その条件を満足する具体的解決手段は何か、がいずれも開示されておらず、本件考案の構成が開示されているとは認められない。

これをさらに具体的に云うならば、電磁波漏洩防止装置、発振器、発振器の発熱を除去する放熱装置、電源装置、電磁波を被加熱物に一様に照射するためのスタラー、その他ターンテーブル、換気用ファン等の、それぞれの構造及び取付構造をどのようにするかは、電子レンジの折りたたみを可能にするために必要不可欠な前提条件であるが、これらについて具体的な開示がない。また、これらの構造を備えた上で、これら部品、装置を保有し且つ加熱室を形成するための全体構造と電子レンジ全体を折りたたむ構造についても具体的な開示がない。したがって、本件考案は、その目的を達成するために必要な構造が未解決であって、実施不可能である。」

3  これに対する審判請求人(原告)の平成元年九月八日付けの意見書及び手続補正書における主張及び補正の要旨は、次のとおりである。

(一) 主張の要旨

イ 電子レンジにおいて、電磁波漏洩防止装置、発振器、その他種々の部材が用いられていることは知られている。

ロ 本願考案は、電子レンジの発振器として静電誘導トランジスタを用いることにより発振器や電源装置(トランス等)を小型にすることができ、電子レンジ本体全体を折りたたみ可能にし、携帯可能にすることが要旨である。

ハ 当業者に常識的なことは、明細書の記載から容易に実施することができる。

ニ 電磁波漏洩防止について、電子レンジ本件の材料として電磁波の遮蔽物を用いること及び各面(板)の端部に導電ゴム等を用いることが記載されており、考慮されている。

ホ 発振器について、発振素子として静電誘導トランジスタを用いること及び上面板9'に設けることが記載されている。

ヘ 電源部について、小型のトランスを用いること、どこに設置してもよいこと、及び本件内壁の適当なところに設けることが記載されている。

ト ターンテーブル、導波管等について、必要不可欠の構成要素でないことが記載され、図示は省略している。

チ その他、種々の部材について、本願考案の要旨は前記したように静電誘導トランジスタと本体全体を折りたたみ可能にしたことにあるから、本願明細書に開示した事項から当業者が容易に実施できることであるから省略している。

乙各号証の公報でもそれぞれの発明の要旨に関する記載が主で、常識的に当業者で了解される事項については省略されている。

(二) 補正の要旨

イ 本願明細書中の「表面」、「裏面」、「左側面」、「右側面」、「台」、「上面」のそれぞれに「板」を付加する(例えば、「表面」を「表面板」に補正する。)。

ロ 本願明細書中の「トランジスタ」二箇所及び「蝶番」一箇所に符号「10」「11」を付加する。

ハ 図面第2図、第3図(a)、(b)を手続補正書の別紙図面に補正する。

ニ 実用新案登録請求の範囲を前項のとおり補正する。

4  審判請求人の前記主張及び補正について検討する。

(一) 主張について

(1) 審判請求人の主張のうちイの主張は、肯認できる。しかし、その従来知られている電磁波漏洩防止装置、発振器、その他の種々の部材がそのまま本願考案の電子レンジに適用できるのか否か、具体的構造が全く開示されておらず、この点の判断ができないので、電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電子レンジの具体的構造は依然として明らかでない。

(2) 審判請求人の主張のうちロの主張は、実質的に本願考案の目的を繰り返して述べたにすぎないものであって、本題考案の目的を達成するための具体的構造を明らかにするものではない。

(3) 審判請求人の主張のうちハの主張は、肯認できる。しかし、本願考案の目的を達成するための具体的構造は、当業者の常識的事項、本願明細書及び図面、提出されたすべての意見書、審判請求書のいずれをもってしても、明らかでない。

(4) 審判請求人の主張のうちニの主張は、肯認できる。しかし、それらの記載は単に用いる材料を開示するにすぎないものであって、電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電磁波漏洩防止手段の具体的構造、導電ゴムの各面(板)の端部への具体的設置状況を開示するものではない。

(5) 審判請求人の主張のうちホの主張は、肯認できる。しかし、それらの記載は単に発振素子を静電誘導トランジスタに限定し、設置場所を例示するものであって、発振器がどんな形状、構造をしているのか、上面板9'等にどのように設置されているのかは開示されてなく、電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる発振器の具体的構造、発振器の具体的設置状況は明らかでない。

(6) 審判請求人の主張のうちへの主張は、小型のトランスを用いること及びどこに設置してもよいことが記載されていることは肯認できるが、電源部を本体内壁の適当なところに設けることは記載されていない。そして、それら記載部分にしても、単に電源部として小型トランスを用いること及び設置場所について記述するのみであって、電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電源部の具体的構造は開示されておらず、当業者に明らかな事項であるとも認められない。

(7) 審判請求人の主張のうちトの主張は、肯認できる。しかし、導波管等の「等」が電子レンジの構成要素の何を指すのか不明であり、したがって、本願考案の必要不可欠な構成要素が何か、また電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことを可能とする各構成要素の電源部の具体的構造が何か、は開示されていない。

(8) 審判請求人の主張のうちチの後段の主張は肯認できるが、前段が肯認できないので、全体としてチの主張は肯認できない。

① 「その他、種々の部材」が何を指すのか、「本願明細書に開示した」どの「事項から」何故「当業者が容易に実施できる」のか、その理由が不明であるので、「省略し」た対象や根拠が明らかでない。また、(7)でも述べたように、本願考案の必要不可欠な構成要素が何か明らかでないため、「その他の種々の部材」のうち、電子レンジ全体を折りたたむのに何が関係し、何が関係しないのかが明らかでなく、また関係するものがあるとすれば電子レンジ全体を折りたたみ可能にするためのその関係するものの具体的構造が明らかでない。

② 「本願考案の要旨は」「静電誘導トランジスタ」「を折りたたみ可能にしたことにある」点は、事実に反する。明細書その他のどこにもそのような記載はない。

(9) いずれにしても、審判請求人の主張は、電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことを可能とする電子レンジの具体的構造を明らかにするものではない。

(二) 補正について

(1) 補正のうちイ及びロは、当業者に明らかな事項及び本願明細書の記載を明らかにする事項である。

(2) 補正のうちハは、①「蝶番11」を図示し、②折りたたみ終了直前の状態における各面板に厚みがあることを図示したものと解されるが(他に、左右側面板8、8'を折りたたむ途中を図示している。)、補正後の当該各図面では、「蝶番11」の構造が依然として不明であり、仮に通常の構造のものであるとした場合、各面板に厚みがあるので第3図(b)のように折りたたむことは不可能であるので、第3図(b)における「蝶番11」の具体的構造が開示されていない以上、仮に各面板と蝶番だけからなるとしても全体を折りたたみできる具体的構造が開示されているとは認められない。まして、電子レンジとしての機能を発揮するために必要な電磁波漏洩防止装置、発振器、電源部その他が、各面板にどのように取り付けられ、全体を折りたたむとそれら構成要素がどのような状態に折りたたまれるのか開示されていないので、依然として電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電子レンジの具体的構造が開示されているとは認められない。

(3) 補正のうちニの「不使用時には本体全体を折りたたんで携帯できるように構成した」という部分は、本願考案の目的、すなわち願望を記載したにすぎないものであり、電子レンジ全体を折りたたみ得る構造を開示するものとは認められない。なお、「本体、全体」の意味も明確でない。

(4) いずれにしても、審判請求人の全補正イないしニは、電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる、電子レンジの具体的構造を開示するものではない。

(三) 以上のとおり、審判請求人の前記意見書及び前記手続補正書の内容を検討しても、前記拒絶理由は依然として解消されておらず、前記拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。

5  以上検討した点を本願明細書及び図面の記載に基づいて更に検討する。

本願明細書第六頁第一三行ないし第一七行に「折りたたみの一例は、(中略)合わせれば行える。」という配載が図面第3図(a)(b)を参照してなされているが、4(二)(2)で前述したように、電子レンジを構成する各面板に一定の厚みがあることは明らかであり、これら厚みのある六枚の面板を蝶番で結合して第3図で示すような六面体からなる箱を構成し、しかも該箱を第3図(b)のように折りたたみ、最終的に「可能な限り薄い一つの層状の携帯にまとめる」(昭和六二年(行ケ)第二二号審決取消請求事件判決の第二五丁表第六行、第七行に記載されている。)ための具体的構造は、電子レンジ分野の当業者にとって常識的事項ではなく、したがって本願明細書の前記記載は「行える」根拠を欠くものである。

審判請求人は前記意見書中で、当業者にとって常識的事項は明細書中の記載を省略できる旨主張しているが、前述したように第3図に係る前記具体的構造は当業者にとって常識的事項に属するものとは到底いえないことが明らかであり、省略はあり得ない。

したがって、前記具体的構造が開示されていない本願明細書は、実施を可能にする構成を欠くものといわなければならない。

6  以上を総合して判断するに、本願考案は実用新案法第三条第一項柱書の考案とは認められず、実用新案登録を受けることができないものである。

四  本件審決の取消事由

本願明細書及び図面には、電子レンジとしての機能を保持しつつ不使用時には全体を折りたたむことが可能となる、電子レンジの具体的構造が十分に開示されており、記載が省略されている事項は、本件出願時の技術水準ないし技術常識に照らし、当業者において容易に実施できる事項である。しかるに、本件審決は、本願明細書及び図面には電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電子レンジの具体的構造が開示されていないと誤って認定、判断し、その結果、本願考案は実用新案法第三条第一項柱書の考案とは認められないとしたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

本件審決の右認定、判断は、本件審決の理由の要点2摘示の拒絶理由をその骨子とし、それをさらに詳細に述べたものであるから、右拒絶理由に示された具体的技術事項について順次その認定、判断の誤りを主張する。

1  電磁波漏洩防止装置

本件審決は、電磁波漏洩防止装置について、「従来知られている電磁波漏洩防止装置(中略)がそのまま本願考案の電子レンジに適用できるのか否か、具体的構造が全く開示されておらず」、「電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電磁波漏洩防止手段の具体的構造、導電ゴムの各面(板)の端部への具体的設置状況を開示するものでない」、「電子レンジとしての機能を発揮するために必要な電磁波漏洩防止装置(中略)が、各面板にどのように取り付けられ、全体を折りたたむとそれら構成要素がどのような状態に折りたたまれるのか開示されていないので、依然として電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電子レンジの具体的構造が開示されているとは認められない」と認定、判断している。

しかしながら、本願考案は、実用新案登録請求の範囲記載のとおり、電子レンジの各面板は「電磁波の遮蔽材料からなる」ことを構成要件とするものであり、電子レンジにおいて電磁波漏洩が許容限度以下でなければならないことは周知であって、本願考案においても、本願明細書に「各面の端部に導電ゴム等を用いれば、電磁波の遮蔽がより完全になされる。」(第五頁第一四行、第一五行)と記載され、電磁波を完全に遮蔽することが十分意図されている。

そして、電磁波漏洩防止装置の設置目的からみて、これを各面板の端部が相互に接する箇所、すなわち、間隙を生じやすい箇所に設置することは当然のことであり、その場合、各面板の間隙から電磁波の漏洩を少なくするには、加工精度を上げ、がたつきをなくし、マイクロ波の直進性を考慮して相互に段部を設けて噛み合わせるようにすることは技術常識に属する。

従来、特許庁では、電子レンジの出願について電磁波漏洩防止装置の具体的構造の開示を要求していない。いわゆる原子炉事件における危険防止手段を欠くから発明未完成という考え方は、最初の原子炉の発明で危険防止手段が従来知られておらず、その手段の開示がないから成立するのであって、電磁波漏洩防止の必要性とその防止手段がよく知られていた本件出願時の技術水準からいえば、本願考案実施のための電磁波漏洩防止装置の細かい構造が開示されていないから、本願考案が完成していないということはできない。

2  発振器

本件審決は、発振器についても、1と同様に、発振器の具体的形状、構造及びそれが各面板にどのように取り付けられ、全体を折りたたむとそれら構成要素がどのような状態に折りたたまれるのか開示されていない旨認定、判断している。

しかしながら、本願考案は、実用新案登録請求の範囲に記載のとおり「電磁波の発振素子として静電誘導トランジスタを設け」るものであり、本願明細書の第三頁第一九行ないし第四頁第一八行、第五頁第一行ないし第四行、第六頁第六行ないし第一〇行の記載と別紙図面第3図(a)に静電誘導トランジスタ10(この静電誘導トランジスタは本件出願時公知のものであり、小型のものであることが知られている。)を裏面板7'の内壁左上部に設けたものが図示されていることから、その具体的構造は明確である。

3  放熱装置

本件審決は、放熱装置についても、1と同様に、発振器の発熱を除去する放熱装置の構造及び取付構造をどのようにするかは、電子レンジの折りたたみを可能にするための必要不可欠な前提条件であるが、これらについて具体的な開示がないと認定、判断している。

しかしながら、マグネトロンを使用する従来の電子レンジではマグネトロンの発熱が大きいため放熱装置が必要である(本願明細書第二頁第一七行ないし第一九行)が、静電誘導トランジスタは外気と接する板に設けられていれば放熱されるので、格別問題はない。

4  電源装置

本件審決は、電源装置についても、1と同様に、電源装置の構造及び取付構造をどのようにするかが開示されていない旨認定、判断している。

しかしながら、本願明細書の第四頁第八行ないし第一〇行、同頁第一三行ないし第一五行、第六頁第一〇行には、電源電圧が数一〇〇V以内ですむから、数一〇〇Vの場合でも、マグネトロン使用時のKVに比して巻線の数が著しく少なく、またマグネトロンの無駄な発熱に伴う電力の消費もないから、トランスは著しく小型化され、かつ電源部をどこに設置してもよいことが記載されている。

したがって、電源部の設置場所は、本願考案の目的上折りたたみに支障がない箇所を選ぶことは当然であって、設置位置は技術常識によって容易に選択できるところであり、場合によっては本体への導線の中間に設けてもよく、本体に設ける際に別紙図面第2図、第3図の場合台板を選び、台板を薄い箱状としてその中に収納し、あるいは裏面板を薄い箱型として、その中に収納してよいことは技術常識上必然である。

電源部は、本体内壁外とし、その際それを感電防止上板等で覆う必要があるので、電源部を設けた板は二重板とし、その中間に納めることは技術常識であって、このような事項まで開示しなければ本願考案を実施できないものではない。

5  ターンテーブル

本件審決は、ターンテーブルについても、1と同様に、その構造及び取付構造をどのようにするかが開示されていない旨認定、判断している。

しかしながら、本願考案はターンテーブルを必要不可欠な構成要素とするものではない(本願明細書第一頁第一六行、第一七行、第六頁第一一行、第一二行)。また、ターンテーブルがある場合について、本願明細書の第六頁第一八行ないし第七頁第四行、第八頁第六行ないし第一四行に詳細な記載があり、その具体的構造は明確である。

6  スタラー、換気用ファン

本件審決は、スタラー、換気用ファンについても、1と同様に、その構造及び取付構造をどのようにするかが開示されていない旨認定、判断している。

しかしながら、スタラーは焼きむらをなくすための装置であり、従来の装置においても不可欠なものでなく、また、換気用ファンがなくても電子レンジの機能は本質的に果たされるから、簡便型である本願考案の電子レンジにこれらの説明がないからといって、電子レンジの構成が示されていないとはいえない。

7  導波管等

本件審決は、種々の部材の関係から、本願考案の必要不可欠な構成要素が何か、またそれらの構成要素の具体的構造が開示されていない旨認定、判断している。

しかしながら、本願考案は、折りたたむことができる電子レンジに係るものであるから、①電磁波を閉じ込めるための容器(本体)、②電磁波を発生する発振器(静電誘導トランジスタ)、③発振器へ電力を供給する電源部と、④折りたたむ構成、すなわち、本体の各板の折りたためる連結が必要不可欠であり、それ以外の導波管等の部材は必要不可欠な構成要素ではない。

8  折りたたみ構造

本件審決は、電子レンジ全体を折りたたむ構造について具体的な開示がなく、また、蝶番11の具体的構造が開示されない以上全体を折りたたみできる具体的構造が開示されているとは認められない旨認定、判断している。

しかしながら、本願明細書第六頁第二行ないし第五行及び第2図、第3図(a)によれば、裏面板7'と左側面板8、右側面板8'にそれぞれ接する面に全長に亘る蝶番11があるから、左側面板8、右側面板8'はそれぞれ裏面板7'の裏へ折りたたむことができる。同様に裏面板7'の上面板9'に接する面と表面板7の上面板9'に接する面にそれぞれ蝶番11があるから、第3図(b)に示すように、表面板7を上面板9'に重ねたものを既に折りたたまれた左側面板8及び右側面板8'の後ろへ折りたたみ、さらに、台板9を裏面板7'の内壁に向かって折りたたむことができる。この場合、静電誘導トランジスタ10と高さ分だけ開いている状態になるが、その高さが低いから、実質的に折りたたみといえる。

以上のとおり、本願明細書及び図面には、電子レンジとしての機能を保持しつつ不使用時には全体を折りたたむことが可能となる、電子レンジの具体的構造が十分に開示されている。

そして、本願考案の目的は、一般的にいえば、本体全体の折りたたみができ、携帯もできる電子レンジを提供することである(本願明細書第三頁第一六行ないし第一八行)が、それをさらに詳細に述べれば、従来の電子レンジで用いられた折りたたみの障害となるマグネトロンを用いないようにして折りたたもうという点(本願明細書第三頁第一九行、第二〇行)にあり、本願考案は、これを解決するためにマグネトロンに代えて静電誘導トランジスタを用い、かつ本体全体を折りたたむことを可能にする折りたたみ手段を採用したものである。

したがって、本願考案は、これらの両手段が明確に示されていれば目的を達成するための手段が示されているというに十分なものである。しかるに、本件審決が電子レンジが備える構成要素のすべてについて明らかにすることを求めているのは、問題点を解決するための手段以上のものを求めるものであり、誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四の本件審決の取消事由は争う。

本件審決の認定、判断は正当であって、本件審決に原告主張の違法はない。

本願考案の目的は、「本体全体の折りたたみができ」、「携帯もできる」新規な電子レンジを提供することにあるが、本願明細書及び図面には、本願考案のこの目的を達成するための手段である構成が開示されていない。以下、原告主張の順序に従い、具体的構造について反論する。

1  電磁波漏洩防止装置

本願明細書及び図面には、本願考案の電子レンジを組み立てたときの各板の間の形状、構造が何も記載されておらず、また導電ゴムが各板の端部にどのように取り付けられるのか、取り付けられた導電ゴム相互間の間隙がどうなるのか、明らかにされてなく、各板の連結部材(例えば蝶番)の具体的形状も材質も全く開示されていない。このように、電子レンジの本体全体を折りたたむという本願考案の目的に直接関係がある、電子レンジを組み立てたときの各板の間から漏洩する電磁波を許容限度以下に押さえる手段の具体的形状、構造が何も明らかでないから、本願考案は、各板の間隙から電磁波が漏洩しないように十分考慮しているとはいえない。

原告は、各面板の間隙から電磁波の漏洩を少なくするため、加工精度を上げ、がたつきをなくし、マイクロ波の直進性を考慮して相互に段部を設けて噛み合わせるようにすることは技術常識に属する旨主張するが、そのような事項は、本願明細書及び図面に記載されておらず、自明の事項でもない。そして、折りたたみや組み立てを可能にし、かつ電磁波を許容限度以下に押さえるために、それら技術常識に属する手段をいかに適用し、どのような形状、構造にするかこそが、まさしく本願考案の目的を解決するための手段そのものである。

本願考案の前記目的と直接関係する電磁波漏洩防止装置の具体的構造が明らかにされていない以上、本願考案は、いわゆる未完成考案であるといわざるを得ない。

2  発振器

静電誘導トランジスタが本件出願時公知のものであるからといって、この静電誘導トランジスタを発振素子とする電子レンジの発振器の構造及び取付構造が知られているとはいえない。また、静電誘導トランジスタを用いた発振器がマグネトロンを用いた発振器より小さいとしても、それだけで電子レンジの折りたたみを阻害しないとはいえない。

3  放熱装置

高出力トランジスタ装置において放熱装置は必須であり、本願考案の電子レンジでは放熱装置が不要であるとする原告の主張は、技術常識に著しく反する。

4  電源装置

電源装置の配置や構成は、電子レンジを折りたたむことができるようにすることと関係があり、これらの事項を電子レンジの折りたたみとの関係で明確にして始めて解決できたといえるのであるから、原告主張の技術常識が電子レンジ一般についていえても、それを電子レンジを折りたたむためにどのように適用したかを本願明細書に開示しなければならない。

本願明細書には「電源部はどこに設置してもよい」(第六頁第一〇行)と記載されているにかかわらず、原告は、本願考案の目的上折りたたみに支障のない箇所を選ぶことの必要性を認めており、このように設置位置に制限があり、またその位置によっては具体的構造にも制限があるから、本願考案の本体全体を折りたたむという目的との関連において、電源装置配置や構成を明らかにする必要がある。

5  ターンテーブル、スタラー、換気用ファン、導波管等

これらの部品は、原告が本願考案の構成に必要不可欠な構成部品ではないという事項に関するものであるので、本件審決と直接関係がなく、反論しない。

6  折りたたみ構造

原告は、電子レンジの本体の折りたたみの例を説明しているが、そのような個別具体的で細かい技術事項を追加しなければならないのであれば、それこそ本件審決のいうとおり「その目的を達成するための手段である本願考案の構成が開示されていない」ことの証左である。

そして、本願明細書及び図面には、電子レンジの本体全体を折りたたんだ状態について、六枚のすべての板がぴったりと「直接接するように重ね」られていることしか記載されておらず、そうであれば、静電誘導トランジスタの高さ分だけ開いている状態になるのは、電子レンジを折りたたんだことにならない。本願明細書及び図面に開示した折りたたみ構造では、本願考案の目的を達成できないというべきである。

以上のとおり、本願明細書及び図面には、「本体全体の折りたたみができ」、「携帯もできる」新規な電子レンジを提供するという本願考案の目的を達成するための手段として必要不可欠な事項が何ら明らかでないので、本願考案の目的を達成するための手段である構成が開示されているとはいえない。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の実用新案登録請求の範囲)、同三(本件審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の本件審決の取消事由の存否について判断する。

1  《証拠省略》によれば、本願明細書には、本願考案は、不使用時には本体全部を任意形状に折りたため、しかも携帯できる新規な電子レンジ(本願明細書第一頁第九行、第一〇行、昭和五九年七月七日付手続補正書二枚目第八行ないし第一一行)に関するものであって、従来の電子レンジが必須の構成要素としているマグネトロンには、①電源電圧が高く、大型のトランスが必要であるため、全体の形状が大型で質量的にも重く、持ち運んで任意の場所で使用することが不可能、②振動に弱く、固定装置・放熱装置等の付属装置が必要、③寿命が二〇〇〇時間程度で短く、効率が五〇%程度という欠点がある(本願明細書第二頁第五行ないし第三頁第二行)との知見に基づき、これらの欠点を除去し、「本体全部の折りたたみができ、携帯もできる新規な電子レンジを提供すること」を技術的課題(目的)とし(同第三頁第一六行ないし第一八行)、実用新案登録請求の範囲(平成元年九月八日付手続補正書三枚目第二行ないし第八行)記載の構成を採用した旨記載されていることが認められる。

2  原告は、本願明細書及び図面には、電子レンジとしての機能を保持しつつ不使用時には全体を折りたたむことが可能となる、電子レンジの具体的構造が十分に開示されており、記載が省略されている事項は、本件出願時の技術水準ないし技術常識に照らし、当業者において容易に実施できる事項であるのに本件審決は、本願明細書及び図面には電子レンジとしての機能を保持しつつ全体を折りたたむことが可能となる電子レンジの具体的構造が開示されていないと誤って認定、判断し、その結果、本願考案は実用新案法第三条第一項柱書の考案とは認められないとしたものであって、違法である旨主張する。

考案は、自然法則を利用した技術的思想の創作(実用新案法第二条第一項)であって、このような技術的思想の創作として実用新案権という独占的排他的権利が認められるためには、当業者が明細書及び図面の記載に基づいてこれを反復実施して所期の技術的課題(目的)を達成できる程度にまで具体的客観的なものとして構成されていることを必要とし、明細書及び図面に記載された技術内容がこの程度にまで構成されていないものは考案として未完成なものであって、実用新案法第二条第一項にいう考案とはいえない。したがって、かかる実用新案登録出願は同法第三条第一項柱書にいう考案に当らないことを理由に拒絶されるというべきである。

本願考案は、「本体全部の折りたたみができ、携帯もできる新規な電子レンジを提供すること」を技術的課題(目的)とし、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものであることは、前述のとおりであるから、本願考案が考案として完成しているというためには、本願明細書及び図面に、電子レンジとしての機能を保持しつつ不使用時には全体を折りたたむことが可能となる、電子レンジの具体的構造が当業者において本願明細書及び図面の記載に基づいてこれを反復実施して所期の技術的課題(目的)を達成できる程度にまで開示されていることを必要とする。

そこで、本願明細書及び図面に右にいう具体的構造が記載されているかについて、検討する。

(一)  電磁波漏洩防止装置

《証拠省略》によれば、本願明細書及び図面には、電磁波漏洩防止装置について、実用新案登録請求の範囲に「電磁波の遮蔽材料からなる台板9、上面板9'及び四つの側面板7、7'、8、8'」と記載され、また、考案の詳細な説明に「各面の端部に導電ゴム等を用いれば、電磁波の遮蔽がより完全になされる。」(第五頁第一四行、第一五行)と記載されているにすぎないことが認められる。

したがって、本願明細書及び図面には、台板、上面板、側面板を電磁波の遮蔽材料で構成することと各面板と各面板の間の電磁波漏洩防止装置に使用する材料が開示されているのみで、その材料を用いてどのように電磁波漏洩防止装置を形成するのか、その具体的構造についての開示がない。

ところで、《証拠省略》によれば、本件出願時、電子レンジは高周波を利用して食品を調理している関係上、その電波が本件と扉との間から漏洩するおそれがあり、漏洩した場合には、人体に有害であること、その原因は、周波数が高くなると、電波は身体を通り抜けることができなくなり、体内で電力を吸収し、熱を発生し、体内諸器官に障害を生じるためであることが広く知られていたことが認められる。

したがって、電子レンジにおいては、電磁波漏洩防止手段を講ずることが安全確保の上で必要不可欠なものであるところ、本願考案は、前記認定のとおり、「本体全部の折りたたみができ、携帯もできる新規な電子レンジを提供すること」を技術的課題(目的)とし、実用新案登録請求の範囲記載の折りたたみ構造を採用したものであるから、各面板に電磁波漏洩防止材料を用いるとしても、各面板間に電磁波漏洩を生じることは必然であり、安全確保上必要不可欠な電磁波漏洩防止手段についての具体的構造の開示のない本願考案は、安全上の問題から電子レンジとして未だ使用するに耐えないものであって、電子レンジの考案として完成していないといわざるを得ない。

この点に関し、原告は、電磁波漏洩防止装置の設置目的からみて、これを各面板の端部が相互に接する箇所に設置することは当然のことであり、その場合、各面板の間隙から電磁波の漏洩を少なくするには、加工精度を上げ、がたつきをなくし、マイクロ波の直進性を考慮して相互に段部を設けて噛み合わせるようにすることは技術常識に属する旨主張する。

しかしながら、仮に通常の固定構造の電子レンジの電磁波漏洩防止装置として原告主張の手段を取ることが技術常識であるとしても、本願考案のような折りたたみ構造を採用した場合の電磁波漏洩を許容限度以下に抑えるための手段として原告主張の手段を採用することが技術常識に属するとは到底認めることができず、そのことが本願明細書及び図面に記載されていなくとも当業者に自明であるとはいえない。

また、原告は、従来、特許庁では、電子レンジの出願について電磁波漏洩防止装置の具体的構造の開示を要求しておらず、いわゆる原子炉事件における危険防止手段を欠くから発明未完成という考え方は、最初の原子炉の発明で危険防止手段が従来知られてなく、その手段の開示がないから成立するのであって、電磁波漏洩防止の必要性とその防止手段がよく知られていた本件出願時の技術水準からいえば、本願考案実施のための電磁波漏洩防止装置の細かい構造が開示されていないから、本願考案が完成していないということできない旨主張する。

しかしながら、考案が完成したものというためには、当業者が明細書及び図面の記載に基づいてこれを反復実施して所期の技術的課題(目的)を達成できる程度にまで具体的客観的なものとして構成されていることを必要とし、明細書及び図面に記載された技術内容がこの程度にまで構成されていないものは考案として未完成なものであることは、前述のとおりであり、特許庁の実務の傾向が直接右判断に影響するものではない。そして、本件出願時本願考案のような折りたたみ構造を採用した場合の電磁波漏洩を許容限度以下に抑えるための電磁波漏洩防止装置が当業者に広く知られていたことを認めるに足りる何らの証拠も存しないから、原告の右主張は理由がない。

(二)  放熱装置

本願明細書には、マグネトロンを使用した従来の電子レンジの欠点の一つとして、固定装置・放熱装置等の付属装置が必要であることが挙げられていること、本願考案は、従来の電子レンジの欠点を除くため、マグネトロンに代えて静電誘導トランジスタを用いるものであることは、前記認定のとおりである。

しかしながら、《証拠省略》によれば、本願明細書には、静電誘導トランジスタを用いる場合であっても、数一〇〇Vの電源電圧を必要とすること(本願明細書第四頁第八行ないし第一〇行)、及び静電誘導トランジスタは設計上電子レンジのどこにでも組み込めること(同第四頁第一四行、第一五行)が記載され、実用新案登録請求の範囲において、この静電誘導トランジスタを電子レンジ本体の上面板又は側面板の一つの内壁に設けるとしているのみで、そのどの位置に設置するかについての限定的記載は存しないことが認められる。

したがって、本願考案においても、数一〇〇Vの電源電圧を必要とする場合に電子レンジ本体に組み込まれた静電誘導トランジスタからの発熱を除去するための放熱装置を設ける必要があることは技術上自明であり、その放熱装置について、折りたたみ構造との関連での取付構造を含めた具体的構造が開示されていない本願考案は、考案として未完成であるといわざるを得ない。

この点について、原告は、マグネトロンを使用する従来の電子レンジではマグネトロンの発熱が大きいため放熱装置が必要であるが、静電誘導トランジスタは外気と接する板に設けられていれば放熱されるので、格別問題はない旨主張する。

しかしながら、本願明細書には、静電誘導トランジスタを外気と接する板に取り付ける具体的構造についての開示が存しないこと前記認定のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

(三)  電源装置

《証拠省略》によれば、本願明細書には、電源装置について、「電源部はどこに設置してもよい」(本願明細書第六頁第一〇行)、「静電誘導トランジスタの電源電圧は(中略)せいぜい数一〇〇V以内でよい。(中略)静電誘導トランジスタは、小型軽量で、しかもマグネトロンの場合のように大型で高重量のトランスを必要とせず」(同第四頁第八行ないし第一五行)とのみ記載され、電源装置は、その機能上加熱室外に設けられるとしても、電子レンジのどの部分に設けるか、また、折りたたみ構造との関連でその取付構造をどのようにするかを含めた具体的構造についての開示が存しないことが認められる。

したがって、電子レンジにおいて必須の構成要素である電源装置について、折りたたみ構造との関連での取付構造をも含めた具体的構造が開示されていない本願考案は、考案として未完成であるといわざるを得ない。

この点について、原告は、電源部の設置場所は、本願考案の目的上折りたたみに支障がない箇所を選ぶことは当然であって、設置位置は技術常識によって容易に選択できるところであり、電源部は、本体内壁外とし、その際それを感電防止上板等で覆う必要があるので、電源部を設けた板は二重板とし、その中間に納めることは技術常識であって、このような事項まで開示しなければ本願考案を実施できないものではない旨主張する。

しかしながら、原告主張の技術事項は、本願明細書及び図面に開示されていない事項であり、折りたたみ構造を採用する電子レンジにおいて、このような事項が技術常識であるとは認め難く、このことが当業者にとって自明の事項ということはできないから、原告の右主張は理由がない。

3  前記2において述べたとおり、電子レンジにおいて、電磁波漏洩防止装置、放熱装置、電源装置は、必須のものであり、電子レンジに係る考案である本願考案においても同様である。そして、考案が完成しているというためには、当業者が明細書及び図面の記載に基づいてこれを反復実施して所期の技術的課題(目的)を達成できる程度にまで具体的客観的なものとして構成されていることを必要とするところ、本願考案は、本体全体の折りたたみができ、携帯もできる電子レンジを提供することを技術的課題(目的)とするものであり、これを達成するためには、前記電磁波漏洩防止装置、放熱装置、電源装置について、折りたたみ構造との関連での取付構造を含めた具体的構造を開示しなければならない。

しかるに、本願明細書及び図面には、この点について所期の技術的課題(目的)を達成できる程度に具体的客観的な構成が開示されてなく、また原告主張の技術的事項が本件出願時の技術水準ないし技術常識であり、当業者に自明の事項と認めることもできないから、本願考案は、その余の電子レンジの構成について検討を加えるまでもなく、考案として未だ完成したものということができない。

この点について、原告は、本願考案の目的をさらに詳細に述べれば、従来の電子レンジで用いられた折りたたみの障害となるマグネトロンを用いないようにして折りたたもうという点にあり、本願考案は、これを解決するためにマグネトロンに代えて静電誘導トランジスタを用い、かつ本体全体を折りたたむことを可能にする折りたたみ手段を採用したものであるから、これらの両手段が明確に示されていれば目的を達成するための手段が示されているというに十分であり、本件審決が電子レンジが備える構成要素のすべてについて明らかにすることを求めているのは、問題点を解決するための手段以上のものを求めるものであり、誤りである旨主張する。

しかしながら、本願考案において、折りたたみの障害となるマグネトロンに代えて静電誘導トランジスタを用いたとしても、そのことから直ちに、当業者が本願明細書及び図面の記載に基づいて本願考案の前記技術的課題(目的)を達成できるわけではなく、そのためには、電子レンジに係る考案である本願考案において必須の構成要素である電磁波漏洩防止装置、放熱装置、電源装置について、折りたたみ構造との関連での取付構造を含めた具体的構造を明らかにしなければならないことは、前述のとおりであって、この点が本願明細書及び図面に開示されておらず、当業者にとって自明の技術的事項ともいえない以上、本願考案は未完成といわざるを得ないから、原告の右主張は理由がない。

4  以上のとおりであって、本願考案は、考案として未完成なものであって、実用新案法第二条第一項にいう考案とはいえないから、実用新案法第三条第一項柱書にいう考案に当らないとした本件審決の認定、判断は正当であって、本件審決に原告主張の違法は存しない。

三  よって、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 岩田嘉彦)

〈以下省略〉

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